652H 103系HK610編成 津久野バルブ

阪和線

 

2016/12/9 652H 普通|天王寺 103系HK610編成
EOS 7D EF24-105mm F4L IS II USM 

 2023年の暮れもいよいよ押し詰まろうとする時期になった。

 被写体の枯渇が叫ばれて久しい昨今だが、それでも10年程前は食指が動く冬臨の設定があったり或いは雪レや大雪による夜行列車の遅延などこの時期ならではのイベントが数多く存在していたように思う。年が明ければ初詣臨に古老の国鉄特急形車両や民鉄の古参車両が充当されこれまた盛り上がったりしたのだが、次第に車両の世代交代が進み、近場で楽しめる列車がどうにも減ってしまった。

 そういう訳で、寒い冬は暖房の効いた部屋から出るのが億劫な体になってしまっている。もちろん各所に撮りたいと思えるシーンはまだまだ点在しているし、結局は”今”の楽しみ方を出来ない自分が悪いのだが...。


 しかし、世の中の全てが線路際にあるのではない。冬臨以外のマニア界隈全国区年末イベントと言えば、冬コミだろう。2023年冬はC103ということで、語呂合わせでコミケカタログの表紙を103系が飾るという。

 103系と言えば阪和線でよくお世話になったものだ。大学への通学では毎日普通列車に揺られ、撮り鉄遠征では早朝の4ドア車区間快速運用で唸りを上げるMT55の爆音に未だ見ぬVカットへの期待を膨らませ、幼い頃まで時を遡れば遠くまで響き渡る主電動機の音を子守唄に育...これは流石に大げさか。

 そんな日根野の103系の中でもマニアからの人気が高かったのが、HK610編成。阪和線生え抜きの低運転台クハ2両、編成全車に残るベンチレーター、妻面窓...と本線上に残存する103系の中で最も原型度が高いという触れ込みだった。よくうっかりしたマニアがHK610のことを「原型の103系」と呼んで過激なマニアから叱られるのもインターネットの風物詩であったが、それも今となっては過去の出来事である。

 阪和線の普通列車へ225系5100番台が投入され始めた2016年、HK610が数カ月運用を離脱していた。この時は11月頃に運用復帰し首の皮が繋がったのであるが、日根野103系の余命幾ばくもない中、HK610にもいよいよ最期の時が迫っていることを実感せざるを得なかった。それなら遺影の一つでも撮っておくか!と運用表を繰ると程々の時間に天王寺行きで上ってくるようだ。既に普通列車に充当され始めていた3ドア車もバルブしつつ、HK610の端正な姿をカメラに収めた。


 コミケカタログ表紙の語呂合わせネタと言えば記憶に残っているのがC88で、かの『エリア88』にあやかって作者の新谷かおるが筆を執ったのだった。つい数年前の出来事のような気がするのだが、なんと2015年の事である。

 当時はまだ103系も日根野でバリバリだったが、今や記念碑的にコミケカタログの表紙を飾る存在となってしまった。中村草田男ではないが、遠くなりにけり...だ。