EOS-1DX3 SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art
夜の帳が下りる頃、大井川に沿って国道362号を北上する。今は電車の通わぬ大井川本線の第四橋梁を左に見ながら静岡県道77号に入り、暫く走ると千頭の駅に着く。これより先は奥大井とも称される静岡の奥地、人煙希な山間部だ。
このまま足元の道を極めれば、一般車通行止めの沼平ゲートの向こう、遠く南アルプスの頂にまで行き着くという。だがそこは屈強な山屋の世界であり、鉄道マニアの目指すところではない。軟弱だから己が足ではなく車で山を登るし暑い夏や寒い冬でも空調の効いた車内で快適に過ごす我々が登山家と同じ土俵に立ったような顔をするのは汗顔の至りだが、精神的にも物理的にも高みを目指すという行為に惹かれる点では同じはず。だから俯瞰や山岳路線に魅力を感じるのだ。そう考えながら、登山靴を履いた足を踏み出す代わりにアクセルを踏み込んで車を更に奥地へと進めた。
しらばく車を走らせて、日もとっぷり暮れた頃にアプトいちしろ駅に辿り着く。いつもなら井川線の終電などとっくに行ってしまってるが、構内には煌々と明かりが灯され、側線の方からはアプト区間の補機ED90が暖機する唸り声が聞こえてくる。土曜日の今日は冬季限定の星空列車が設定されているのだ。奥大井湖上駅で星空観察を行うというだけあって、当然運行されるのは夜。夜間に定期列車の設定がない井川線では貴重な列車だ。日中の大井川本線の撮影はあまりパッとしなかったが、ここはED90の夜間連結シーンをビシッと抑えて溜飲を下げたい。
しかしここで曲者なのが一般乗客。こちらは列車に乗らずに写真だけ撮りに来てる身であるから文句を言う資格はないのだが、乗降扉が開くやいなや連結シーンを見ようとカマのところにスマホ片手で殺到してくるから処置無しである。鉄でなくともオタク気質な乗客が多い時は結構立ち位置に配慮していただけるが、そうでない時はアングルも何もあったものではない。さあ今日はどうだ!?
客車の扉が開くと同時に、ものすごい勢いで善良な乗客の皆様がカマのところに駆け込んで来た。正直客層的には過去一番...であるが、ちゃっかり隙間を見つけて潜り込む。できれば本務機DD20の車体が構図に入るようもう少しサイドから引いて撮りたいが、そんなことは言ってられない。そうしている内に入線してきたのは、あかつき風のヘッドマークを掲げたED901。強烈な作業灯の光でカンテラを振りかざす乗務員氏の姿が浮かび上がったところでシャッターを切る。こんなモンでどうだ!?