GFX 50S GF110mmF2 R LM WR
2024年春のダイヤ改正の目玉は北陸新幹線の敦賀延伸開業だろう。その得失について改めて言及することは控えるが、”敦賀行きのサンダーバード”という字面は伝統の関西発着北陸特急の終焉を感じさせるのに十分だ。一方そこからはるか南へ下った本州最南端の地、紀勢本線を駆ける特急くろしおも一つの節目を迎えていた。デビュー当時”スーパーくろしおオーシャンアロー”と呼ばれていた頃から連綿と続いていた283系の新宮夜間滞泊運用が終了するのである。まあどうでもいいといえばどうでもいいのだが、新宮を朝に発つ運用が無くなれば283系を撮れなくなる撮影地というものが間違いなく存在する。男の子には全く縁の無いひな祭りの日、車のハンドルを握り紀南の地で葬式鉄と洒落込むことにした。
東名阪道を亀山インターで降り、紀勢自動車道の無料区間を挟みつつ有料道路抜きで走り続けること約4時間。深夜にたどり着いたのはカーブする鉄橋が有名な古座川の撮影地だ。283系付属編成代走時以外にも幾度となく通った撮影地だが、数年前はGFXをコンマ1秒早切りしたせいで流線型のパノラマグリーン車の頭から山の稜線がちょっと飛び出して見えているのが格好悪くて気になっていた。リベンジをずるずると先延ばしにしていたが、今日はその忘れ物を回収しに来たのだ。
駆け込みマニアの大集合を警戒して夜明け前には立ち位置へオンステージ。まァほぼ一番乗りだろう...と思っていたが、なんと現場は「紀勢トワでも来るんですか?」というレベルの場所取りで満員御礼。流石に潜り込むスペースくらいはあったのでちゃっかり隙間に入れてもらったが冷や汗モノである。前回は1DX3とGFXの2台体制を敷いたが、今日のパニり具合ではとても二丁切りは出来そうにない。事ここに至って妥協する訳にはいかないので、腹をくくって一発切りオンリーのGFXを三脚に据える。レンズは110mmの単焦点ならライカ判換算で85mm、6両編成の特急電車がピタリ収まるはずだ。立ち位置はまずまず、天気は上々。あとはシャッターさえ落とせば写真が撮れるはずだが、これが一番難しい。
定時、カーブした鉄橋の対岸に目を光らせたイルカ顔が現れた。古座駅に停車するため電車はゆっくりと進んでくるが、前はそれでも失敗しているから油断は禁物だ。切り位置となるガーターの桁を睨みつけ、固唾をのんでその時を待つ。まだまだ、もうちょい、あと少し...ここだ!周囲のカメラから連写する音が鳴り響く中、たった一度だけ愛機のシャッターを切った。