2024/5/18 9551D 臨時快速あめつち~因幡・但馬~
GFX 50S GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR
5月も下旬に近づくと、季節は初夏へ足を進めようとしているのが手に取るようにわかる。山々の緑は深まり、海はその青さを増し、太陽は中天で爽やかに輝く。芽吹いた生命が大地に満ちていくこの時期が、四季を通して最も好みかもしれない。桜の刹那的な美しさが人々を引き付ける春でもなく、太陽の日差しは強烈で生命が盛りを迎える力強い夏でもなく、今際の時に最後の輝きを放たんがばかりの紅葉が美しい秋でもなく、生命が絶えてなお柔らかな陽の光や全てを凍てつかせる雪に無機的な魅力のある冬でもない。植物も動物も頂点に向かい成長していくという未来への希望を感じさせる初夏は、生命賛歌の季節なのだ。
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古事記や日本書紀が伝える日本の建国神話によると、"天"上の高天原から降臨した伊邪那岐と伊邪那美の二柱は混沌とした"地"上をかき混ぜて造ったオノゴロ島で国生みを行い、これによって日本の国土が形造られたという。この伝承上の島の所在は杳として知れぬが、出雲地方が様々な神話の舞台になっていることを奇貨としてなのか、JR西日本は"あめつち"という観光列車を鳥取~出雲市で運行している。あめつち公式ホームページを見たところで別に国産み神話の起源主張がされているわけではないのだが、"天地"と列車名に冠する以上はそういう意図があるのだろう。オノゴロ島伝承は島根県にもあるようなのであながち嘘でもないのだが、ホームページには"ネイティブ・ジャパニーズ"なるギョッとする単語だの"あめつちのテーマ"なるテーマソングだの胡乱な情報が溢れており、火事場泥棒的な列車名の由来を誤魔化そうとしている可能性は排除できない。
この"あめつち"の因幡・但馬コースが今年4月から新設され、月2日ほどのペースで運行されるらしい。生まれ落ちた生命が大地に根を張り満ちていく初夏に国生み伝説を想起させる被写体を撮るというのもなかなか乙である。天気予報が晴れマークを付けた運転日の週末に、神話の国から抜け出した国生み伝説の幻影を撮影すべく但馬の山へ登った。
山中の立ち位置から望むのは、深さを増す新緑に抱かれた田んぼと青く輝く日本海!折よく田んぼには水が入り、言う事無しの絶景だ。これでテンションを上げるなという方が無理である。
定時、山の向こうからタタンタタンという走行音が聞こえてきた。海岸沿いを走る列車は一度トンネルに入り、辺りにつかの間の静寂が戻る。寸刻の後、山陰の美しい空や海をイメージしたという紺碧色のキハが音もなく築堤上に現れた。左右のバランスを見ながらベストな位置でシャッターを切る。手応えあり!
キハが軽快なジョイント音を奏でて走り去った後、静かな山中に残されたのは、天地と共に生きる人々が耕す谷間を駆け抜けた"あめつち"の写真だけだった。令和6年のネイティブ・ジャパニーズ、ここに極まる。V!