302レ 鮮魚列車|大阪上本町 2680系X82 松阪バルブ

近畿日本鉄道

 

2019/12/23 302レ 鮮魚列車|大阪上本町 2680系X82
EOS-1DX EF24-105mm F4L IS II USM

 いくら地球温暖化が叫ばれようと、12月も下旬になれば流石に寒さが身に沁みる。しかし寒気の訪れは年によってある程度はズレるもので、今年などは冬将軍が本腰を入れる時期が比較的遅かったように思う。それに比べると日照時間の推移は正確無比である。気温などよりも、通勤で家を出る時の空の色の方がよっぽど季節の移ろいを感じさせてくれるものだ。
 これをテツに当てはめると、早朝の列車を夜の雰囲気でバルブできるのは冬しか無いということだ。特に撮影時刻が6時を回るような列車はチャンスが限られてくる。今回の写真はそんな一枚である。

 近鉄の鮮魚列車がまだ鮮魚列車として走っていた頃の話である。専用車両であるX82の上本町側方向幕が破損したため、代替措置で看板が掲出された。普通なら早々に幕を入れ替えるところだが、引退を控えていたためか修理されず看板のまま運行される日々が続いていた。近鉄には疎い身故にミーハー根性丸出しだが、これは撮りたい。しかし鮮魚列車は常に太陽を背に走るダイヤなので通常の走行写真を狙うにはハードルが高いのである。そこで、今は冬だからバルブ出来るのではないかと安直に考えたのであった。
 しかし利用者たる行商人とて市場で魚を仕入れる必要があるため、鮮魚列車の運転時刻はそこまで朝早くない。時刻的には青山峠よりも東でないと話にならないはずだ。はてさてどこなら撮れるものやら、と路線図を追いかけていく。明星、宇治山田、松阪、伊勢中川、榊原温泉口、東青山...知らんがな!
 諦めて近鉄に詳しい友人に聞いてみると、松阪なら撮れるとのこと。時刻は6時30分。なんとかバルブできるはず!そうと決まれば話は速い。有給を取得した師走の暮れに国道165号で夜な夜な青山峠を越えた。

 JRも同居しているからか、どことなく地方都市中心部の国鉄駅を彷彿とさせる外観の駅舎へ足を踏み入れる。松阪駅を訪れるのは初めてだが心配御無用。ここは近鉄王国三重県であるからして、人の流れに沿って進めば自然と近鉄乗り場へと辿り着いた。
 ホームの外れで早々にゲバを立てる。既に東の空は朝焼けに染まりつつあるが、なんとかバルブと言える雰囲気で撮影できそうだ。定時、粛々と滑り込んできたX82を前に手堅くシャッターを切った。

 この後は国道42号を南下して新宮で105系の紀南代走を撮影。最終的には紀伊半島を一周して帰宅している。被写体の枯渇が叫ばれて久しいが、令和元年当時はまだまだ掛け持ち出来るくらいには撮るものが有ったということだ。暦が進んで令和6年の今、計画を練って寒い中わざわざ出かけて撮るに相応しい被写体はもはや数えるほどしか残っていないというのが偽らざる本音である。