138D 普通|小海 八幡屋礒五郎「小海線缶」HM 浅間山バック

小海線

 

2025/1/11 138D 普通|小海 八幡屋礒五郎2025イヤーモデル「小海線缶」HM
EOS-1DX3 EF200mm F2L IS USM + EXTENDER EF1.4×III

 鉄道マニアほど「正調」という言葉に弱い者は無いだろう。正調編成、正調デザインのヘッドマーク等、我々が喜ぶ言葉には大抵この2文字が入るものだ。もし遠征先でイレギュラーかつレアな代走が本命の列車で発生したことにより正調な被写体を極める機会を失ったとしたら、肩を落とす諸兄も多いのではないだろうか。最近は沿線の企業等とタイアップしたラッピングを1編成だけに施すことも多いが、肝心な時に限って最高条件の撮影地でその編成が姿を表すものと相場が決まっている。正調な写真を撮る機会は常に脅かされているのだ。

 その点では小海線は気楽なもので、只見線や氷見線のように変な図柄を身にまとうテロリスト車両はここ暫くは存在していない。キハとハイブリッドの運用も峻別されており、関西から足を運ぶ身には実にありがたいことである。
 だが2024年の暮れ、夜明け前に太田部の浅間山バックで見送ったキハにはなんとヘンテコなカンが付いていた。ああ小海線よ、遂にお前もか!
 しかし改めてカンを見てみるとなんとキハ110が描かれている。さらによくよく見てみると、驚いたことにどうやらカンの中でキハが走っているのはまさにこの浅間山バックの撮影地ではないか。2025年式の七味が云々という文言と屋号らしき漢字の羅列からするに、地元企業の”小海線缶”なる製品をPRするHMのようだ。変なHMは遠慮したいところだが、こういう味のある絵柄なら大歓迎。HMに描かれた被写体をHMに描かれた撮影地で撮るというのもまた一興である。
 撮り鉄専業ではない地元の趣味者においてもこのHMは注目の的らしく、HMの元になった写真を撮影された中込カメラの方と写真が趣味という御夫婦と一緒にキハへカメラを向けた。しかし西の空に広がる薄雲のせいで光線は閉店。一応シャッターは切ったが、小海線缶のカットは幻と消えてしまった。

 しかしここまで来ると諦めるのも癪である。年が明けた成人の日の三連休、迷わず車のハンドルを東信の地へと向けた。予報通りバリ晴れの空の下でギンギンに積雪した八ヶ岳バックのキハを極めた後、満を持して浅間山バックの撮影地にオンステージ。HMは浅間山の山容を大きく入れて手前のストレートまでキハを引っ張る午前アングルだが、列車が来る頃にはサイドが潰れているので奥のカーブをアップで切り取るようにゲバを据えた。準備万端!
 しかし、夕方になるとこれまた予報通り八ヶ岳上空に雲が湧き始めた。構図内にドカンと入る浅間山の頭上に雲が湧くのも困るが、太陽が沈む八ヶ岳の方角に雲が湧くのはもっと困る。初詣のお賽銭の額を増やせばよかったなどと後悔しているうちに光線はディフューズしてしまい、見るからに不戦敗の雰囲気となってしまった。
 しかし捨てる神あれば拾う神あり。遠くからキハのディーゼルサウンドが聞こえてくると同時に、浅間山がアーベントロートに燃え始めたではないか。信心などさらさら無いくせに現金なものだがこうなると神頼みにも俄然力が入る。が、俄仕込みの信仰の限界か、アングルの開店は途中で終了(涙)。ちょっとヌルいが仕方がない。HMの中の浅間山がキリリと像を結んだところでレリーズを押し込んだ。

 撤収後、コンビニで調達した蕎麦にセットされていた何やらカラフルな七味の小袋を取り出してみると、先ほどHMで見たのと同じ”太字で七味と書かれた黄色い唐辛子”が印刷されていた。おのれ八幡屋礒五郎め、まさかアングルの外まで追いかけてくるとはな。そういえばこの黄色い唐辛子、七味の赤い缶に描かれて飲食店の机上に並んでいる姿を見ることがある。そうか長野の企業だったのか・・・そう感慨にふけりながら蕎麦をすすり終える頃、肝心の七味を入れ忘れていたことに気づいたのであった。