EOS-1DX EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM
鉄道路線の延伸はそうそうあるイベントではない。鉄道事業者にとっては大きな設備投資が必要になるので当然である。しかし日本に冠たる大大阪となると話は違う。2024年3月に北大阪急行を箕面萱野まで延伸したばかりだが、2025年1月19日、今度は大阪メトロ中央線を夢洲まで開業させてしまった。どちらも僅か1駅だけの延伸ではあるが、電車の行き先が変わるというインパクトはやはり大きく、路線を途中に新駅を設けるのとは世間での扱いも全く変わってくるのだろう。
保育社の『日本の私鉄』を読んで育った身としては、中央線の行き先はやっぱり「大阪港」。乗り入れる近鉄の路線は「東大阪線」。いきなりコスモスクエア行きだの学研奈良登美ヶ丘行きだのけいはんな線だの言われても何がなんだか...といったところだ。
一応路線名の通り阪奈連絡にも使用できるのだろうが、生駒山地を越えてしばらくすると近鉄奈良線高の原駅の西方3.5kmに位置する登美ヶ丘駅で終点となってしまう。ここは近年造成された住宅街ド真ん中の駅で、特に他の鉄道路線と接続している訳では無い。従って登美ヶ丘駅前のイオンモールに用があるのでなければ生駒駅で近鉄奈良線に乗り換える羽目になるし、生駒から同じイオンモールに行くのなら件の高の原駅前のイオンモールに行くほうが10円運賃が安い。高の原のイオンの方がかなり大きいし、何と言っても店内に京都・奈良県境があるなどイオン界におけるヒエラルキーは間違いなく高の原が完勝である。けいはんな線とは言うものの、沿線住民以外が都市間連絡で使うこともまず無い路線だろう。
しかしこちらも大抵の阪奈連絡ルートは乗車済み。近鉄奈良線とJR大和路線は言うに及ばず、桜井線~和歌山線~阪和線の経路だって通しで乗車している。だったらけいはんな線も使おうじゃないか、と近鉄奈良線の撮影行の帰り道に高の原駅でふらりと電車を降りた。件の巨大イオンを眺めつつ、駅前広場から20分ほどバスに揺られればそこは登美ヶ丘駅である。いきなり改札をくぐってもいいが、いい塩梅に空が暗くなってきたのでそろそろバルブ出来るはずだ。昔見た作例の記憶を頼りに駅東の丘に登ると、島式ホームがぴったり構図に収まった。
最初に近鉄7000系が並んだ以外は、やってくる車両は全てコマルの20系。「学研奈良登美ヶ丘行き」の幕を回して「コスモスクエア行き」になる頃には、下車客も乗車客も全てはけてホーム上には人っ子一人居ない状態になってしまったではないか。シャッターを切りながら、果たしてこれで大丈夫なのか...という疑問が胸を去来した。
あれから約7年。中央線の20系は本線上から姿を消し、夢洲への延伸によりコスモスクエア行きの電車が2本並ぶこともなくなった。オリンピック誘致やテクノポート大阪計画の失敗以来長年負の遺産と呼ばれ続けた夢洲での万博開催自体が既に敗戦処理の様相を呈している感がしないでもないが、中央線を延伸したからには万博後のIR需要でなんとか食いつないでいけることを祈るのみである。