EOS-1DX3 EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM
時は平成初期、私がまだ小さい子供だった時分の話である。罪なき児童を沼に突き落とす悪書として名高い図鑑「100点」シリーズのうち鉄道にまつわるものが何冊か家にあったのだが、写真以外の情報に乏しい同書に飽き足らず、図書館に足を運んでは鉄道関係の書籍を借りて帰るのが恒例行事となっていた。
「雷鳥」、「北近畿」、「はまかぜ」…当時は現役だった名優の姿を様々な書籍で追いかけていると、ひときわ目を引く車両がしばしば登場することに気づいた。クリーム4号と赤2号を身に纏う同じ様な形の特急型車両が日本各地を走っている中で、クリーム色の地色に青い帯を巻いた異端児。限界まで車体を拡張したという角ばったフォルムはあまりスマートとは思えなかったが、いつもの特急型車両の塗り分けからちょっと色を変えただけでこんなにも印象が変わるのかと驚いた。いったい何という車両なのだろう?写真のキャプションにはこう記されていた―――「月光形」、と。
JR東日本が展開する復刻塗装、E653系ヘリテージシリーズ(勝手に命名)。上沼垂色もなかなか良いが、その真髄はやはり勝田車に施された国鉄特急色だろう。どうして定期運用のない勝田車なんだ…と随分嘆いたものだが、ここでまさかの真打ち国鉄寝台特急電車色が新潟車に登場である。これは必修科目でしょう!なんでも庄内エリアの観光キャンペーンに合わせての登場らしいが、冷静に考えれば、羽越本線で運転された583系って臨時列車又は代走ばかりのような気がしないでもない(汗)。まあこちらとしてはカッコよく撮れればそれでいいのだ。
さて、満を持してやって来たのはトンネル抜きの撮影地。海を絡めたショバに行きたいのが本音だが、曇り基調の今日は絶対に無理。ま、海だけでなく山も沿線風景を形作る重要な役者である。連続する尾根を短いトンネルを連ねて貫通する光景には、本線ながら建設時期が比較的遅く、それでいて長大トンネル一本で済ませるには時代が早かった羽越本線の特色がよく現れている。もっとも、ここは複線断面のトンネルなので、羽越らしいかと言われると若干疑問符が付くのだが…。
昨晩の大雨で日本海縦貫線のダイヤはガタガタ。貨物列車はいつやってくるのか知れたものではないが、今日は早朝便が運休した以外に「いなほ」への大きな影響はないようだ。その「いなほ」も昨日は大混乱で、列車遅延により急遽登板したU101編成は秋田からの折り返しが叶わず、予定外に一晩の逗留を余儀なくされた。運用表を繰ってみると、今日の8Mで新潟へ帰るとしか考えられない。そうであってくれ…いや、そうなるはず!そう信じて線路際にゲバを据え付けた。
定時から遅れること数分、トンネルの向こうから車輪が猛然と回転する轟音が響いてくる。ワンテンポ遅れてトンネルの内壁が前照灯に照らされると、すぐに腰の位置で四連に並んだ特徴的な配置のライトが闇の中で輝くのが見えた。さあ、やってくるのは583系色かフルーツ牛乳か。賭けとしてはかなり分がいい方だと思うのだが、時には鉄道事業者の作戦で足をすくわれることもある。やはり賭博というのは胴元が一番有利なのだ。
トンネルを抜けてきたE653系の御尊顔には、一文字に貫く青い帯。かつて月光形と呼ばれたその名にふさわしく、月の光に淡く照らされた夜空の如き青。伝統のカラーリングを引っ提げて檜舞台に躍り出た「いなほ」をデンシャパワー全開で切り取った。V!
