GFX 50S smc PENTAX67 55mm F4
長らく憧れだった羽越本線を初めて訪れたのは、2021年のことだった。
既に485系はもちろんのこと新津のキハも無く趣味的には出涸らしの感もあったが、この名勝が作り出す光景が色褪せることはない。
前日は出雲崎で越後線の115系を撮り、この日は朝から笹川流れの午前アングルで貨物といなほを撮影。夕方になってこの午後アングルへと移動した。
夏場のこの一帯は海水浴のメッカと化すため、車を停めるには駐車場で観光地料金を払うか路肩の僅かなスペースを奪い合うことになる。だが9月も下旬に突入した頃にもなると辺りは閑散としており、駐車場も無料開放状態。有り難く車を停めさせていただき、そそくさと山の中へと分け入った。
「いなほと言えばヨンパーゴだろ~。E653はフレッシュひたちだろ~」というのが本音なのでE653などどうでも良く、本命はEF510の貨物だ。線路際の塀が途切れたところと架線の碍子の間に列車の顔を置いてシャッターを切るわけだが、事実上一発切りしか出来ないGFX50Sでは意外とタイミングがカツくて神経を使う。そんな訳でピン電のE653相手に本気撮りしてしまった。
だがしかし、ほんのりと夕焼けに染まる空の下、静かな日本海と荒々しく岩肌を露出させた山の狭間を走るE653もなかなか様になっている。フルーツ牛乳と呼ばれるこの塗装は日本海に沈む夕陽と稲穂をイメージしたとのことだが、羽越本線の沿線風景と実によく似合っている。今まさに眼前に広がる風景をそのまま車両に凝縮した様ではないか。電車のリニューアルによくある似合ってない更新色とは違って素晴らしいセンスだ。
それをどうして、海坊主色だのショッキングピンクだの訳の分からない色に塗り替えてしまうかなぁ...とぼやきながら下山したのだった。